卸売市場の規制改革にどう向き合うか ~規制改革の動向と、事業者の対応~

※本記事は(公財)流通経済研究所サイトに掲載されたものを転載しています。
http://www.dei.or.jp/opinion/column/column_backup.html

卸売市場の規制改革

1923年の中央卸売市場法制定以来、100年近くにわたり続いてきた卸売市場制度が、大きな変革の時を迎えている。昨年11月の農業競争力強化プログラムで「卸売市場法を抜本的に見直し、合理的理由のなくなっている規制は廃止」すると明記され、今年9月20日の規制改革推進会議農林ワーキンググループでも、今期の主な審議事項として同様の文言が挙げられた。衆院選の結果によるところはあるが、大きな規制緩和を見越して動くべき時期が来ている。

卸売市場法では、第一条で定める通り「生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化」を目的としている。そのために、卸売数量を毎日公開するとか、一定の割合は競売で販売するといった様々な規制がある。しかし、このような規制を生鮮食品にのみおく必要があるのか、食料不足時代の規制をいつまで続けるのかといった意見は以前から存在しており、古い問題がついに大きなテーマとして取り上げられたわけである。

予想される規制改革

今回の規制改革では、長年問題視されていた以下の規制[1]が、緩和もしくは廃止される可能性がある。

  1.  受託拒否の禁止:産地が出荷した商品は必ず卸売する
  2.  商物一致:卸売する商品は必ず卸売市場に持ち込む
  3.  第三者販売の禁止:卸売業者は承認された仲卸業者・売買参加者にのみ販売できる
  4.  直荷引きの禁止:仲卸業者は市場内の卸売業者からのみ仕入れをする

 このうち①と②は価格形成に関わる規制であり、筆者は廃止される可能性が高いと見ている。現在の価格形成は、必ずしも市場内における需給の突合せで成り立っているわけではなく、むしろ産地の分荷[2]や川下需要者の発注量調整によるところが大きい。そのため、すべての商品を市場内に持ち込むというルールがなくとも、価格形成機能は成立するだろう。受託拒否の禁止は産地にとってのメリットがあるため残る可能性はあるが、商物一致は明らかに無駄を生じており、廃止されるべき規制と考えている。

 ②は産地→卸売業者→仲卸業者→実需者[3]、という流通経路に関する規制である。この規制の廃止は中間業者の省略を認めることであり、卸売業者と仲卸業者が同列になるとも理解できる。この規制廃止は、多くの事業者に混乱を引き起こすと予想される。これまでの取引慣行があるため急激な変化は起きない可能性があるものの、今から規制廃止後を見越した取り組みが事業者に求められる。

規制緩和後を見越して

今後は卸売業者・仲卸業者の区別にこだわらず、競争の戦略を考える必要があるだろう。その方策の例として、私案ではあるが3つの施策を示す。

Ⅰ.産地を形成する

これまで、産地づくりを差別化要素としてきたのは、主に産地市場の卸売業者であった。地元の生産者を組織化し、卸売業者自ら選果をしたり、ブランディングに挑戦したりしてきた。しかし、これからは消費地市場の卸売業者や仲卸業者にも、産地づくりが求められる。自社とつながる産地を持つことは、商物分離による直送体制の構築、生産状況の川下への素早い伝達、川下ニーズに基づいた商品開発などにつながる。また、高齢化による生産減の中、安定調達ができることは新たな契約取引の獲得にもつながるであろう。

Ⅱ.物流の仕組みを作る

近年、小売や外食といった事業者は、産地と直接つながることを求めている。しかし、産地から直接仕入れをすることは簡単ではない。多くの場合、ボトルネックとなるのは物流である。良い生産者を見つけても、小口配送の経費を計算すると割高になってしまい、結局は卸売市場から仕入れることになる。このような例は失敗例のように聞こえるが、卸売市場にとっては集荷のチャンスである。既に産地を巡回して集荷する事業者が現れており、今後は卸売業者だけでなく仲卸業者も注目するべきであろう。

Ⅲ.改めて流通加工を強化する

古くから、3色のピーマンを一つの袋に詰めるといった、流通過程での基本的な加工は卸売市場内で行われてきた。この流通加工が、いま改めて重要になっている。多くの小売業者等がオペレーションを簡略化するために、産地段階でのカットやパッケージングを求めている。一方で、投資余力のない産地や小規模産地は、そのような加工ニーズがあると分かっていても、設備を導入することができない。そこで、流通加工のノウハウをもつ事業者の出番となる。既に先見の明のある事業者はカット事業に乗り出しているが、今後ますます流通加工は重要になると考えられ、今からでも挑戦するべきといえるだろう。

 

以上、ここでは3つの例を挙げたが、他にも様々な取り組みが考えられるはずだ。今後卸売市場流通には大きな変化が待ち受けており、環境変化を見越した新たな挑戦が求められる。

<注>
[1] いずれも例外が認められることはあるが、そのための手続きは卸売業者にとって大きな負担となる。
[2] 産地が卸売業者の販売価格等に応じて、各卸売業者への出荷量を配分すること。
[3] ここで実需者とは、小売・外食・食品加工といった事業者を指す。