6次産業化の概念の変化と、地域での連携の重要性

※本記事は(公財)流通経済研究所サイトに掲載されたものを転載しています。
http://www.dei.or.jp/opinion/column/column_backup.html

6次産業化の行き詰まり

「やっぱり餅は餅屋ですね」

少し前に聞いた、あるコメ農家さんの言葉だ。農業界では、第1次産業に従事する生産者が第2次産業(加工・製造)や第3次産業(販売等のサービス)に進出して利益をあげるという、6次産業化の考えが広まっている。この農家さんは6次産業化として加工品の製造・販売に進出したものの、残念ながら加工業者と渡り合える品質の加工品が作れず、本業に戻ることにしたのだ。これまで多くの生産者さんの話を聞いてきたが、単純な加工・販売への進出は、一部の品目を除きほとんど失敗に終わっているように思う。

経済学や経営学の言葉でいうならば、6次産業化とは多角化・垂直統合のことである。多角化・垂直統合の成功例は多く、ITや輸送機器等の産業で成果をあげてきた。ただし、多角化は中小・零細企業がとるべき戦略ではない。資源や強みを持たない小規模な生産者が6次産業化をしても、取引費用削減やシナジー効果といった多角化のメリットは得られない。むしろ過剰な投資がリスクとなる危険が大きいのだ。それにもかかわらず、多角化・垂直統合の考えが生産者に広まっていることに、私は危うさを感じている。

6次産業化概念の変化と地域連携

このような問題点は、何も最近明らかになったわけではない。問題に早くから気付き、方向性の修正を主張した人も多い。例えばフードシステム学会前会長の斎藤修先生は、地域での6次産業化を唱えている。おおまかに言うと、単一生産者による多角化ではなく、地域で第2次・第3次産業と一体となってクラスターを形成し、価値を創出するという考え方だ。農林水産省の6次産業化政策も、近年では地域での他業種との連携推進を重視しているようだ。6次産業化優良事例表彰でも、地域での取り組みへの表彰が多くなっているように思う。

6次産業化が唱えられ続けている一方で、農商工連携という概念もある。農商工連携とは、第1次・第2次・第3次の産業の壁を取り払って企業が連携し、生産現場から消費者までをつなげようという考えである。近年の6次産業化は、農商工連携に近い考え方になってきている印象だ。他産業に進出して利益を取ってくるよりも、他産業と連携して地域で利益と雇用を創出する取組みが注目されているのだ。弊所前理事長である上原征彦によると、農業者と商工業者の連携はマーケティング力に優れた垂直統合システムであり、地域活性化に重要な役割を果たすとしている。連携によって地域が持つ資源が結び付くとともに、地域レベルでの消費者対応力の強化、ブランド構築といったメリットが期待される。

このように、近年では6次産業化とは、多角化よりも連携を指す概念に変化してきている。また、連携が地域を活性化する効果も期待されている。しかし現場レベルでは、未だに生産者による加工・流通への進出が6次産業化であるという理解が蔓延しており、失敗が続いているように思う。今後は生産の現場にまで、6次産業化の考え方の変化と、連携の重要性を浸透させていく必要があるだろう。

<参考文献・資料>
上原征彦(2011)「農商工連携と地域活性化」, 『マーケティングジャーナル』Vol.30 No.4
斎藤修(2012)『地域再生とフードシステム―6次産業、直売所、チェーン構築による革新―』, 農林統計出版
農林水産省ホームページ 農林漁業の6次産業化 2016年12月19日閲覧
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/6jika.htm