農産物直売所の売り場づくりに関する一考

※本記事は(公財)流通経済研究所サイトに掲載されたものを転載しています。
http://www.dei.or.jp/opinion/column/column_backup.html

農産物直売所は、2009年の調査1では全国約1万7千、増加率から見て現在では2万程度の店舗が存在すると考えられ、農産物流通の少なからぬ割合を占めるチャネルとなっている。しかし、店舗規模をみると年間売上高1億円未満の中小規模の直売所が全体の3/4を占めており、小売業界の競争が激化する中で、売上の頭打ちないし減少に直面している店舗も少なくはない。

香月ほか(2009)の調査分析では、全国の直売所の売場効率は大規模な店ほど高く食品スーパーと同等となっている一方で、中小規模の店舗では売場効率・労働効率ともに比較的低水準にとどまっていることが示されている。また、全体の3/4を占める1億円未満の直売所においては、購買者の伸び悩みを課題として捉えているところが多いという2。店舗効率が低水準のままで客数が伸びなくなれば、必然、売上・利益を増加させることは難しくなる。

売り場づくりの課題

伸び悩みの要因として注目したいのは、店舗レイアウトや商品の配置に関する施策である。例えば中小規模の直売所では、生産者1人に陳列用コンテナおよびスペースを貸与し、各々自由に生産物を搬入・陳列・販促させる店頭管理手法(本稿ではコンテナ割当方式と呼ぶ)がよく見られる。これはおそらく、売り場のオペレーションが各生産者に分散して店舗負担が実質的に小さくなること、劣化した什器の交換が容易であること、スペースの広さに関して生産者間の不公平感が抑制されることなどが主な理由であろう。一見合理的な方法ではあるが、しかし、このような売り場が総合的な観点からも優れているとは言いがたい。

コンテナ割当方式では、売り場が品目ごとに管理されるわけではないため、「今売れるはずの商品」がその時に限って「目立たずあまり売れない場所」(劣位置)に配置されるようなことが発生し、販売機会の損失につながりうる。また劣位置というのは、つまるところ探しにくく買いにくい場所であるから、コンテナ割当方式は単に店舗側からみて不都合があるというだけでなく、来店客側から見ても不便な売り場になっているということでもある。このようにコンテナ割当方式を採用しているところのみならず、売上が伸び悩んでいる店舗では、その店頭管理・レイアウト手法が、店舗にとっても来店客にとっても必ずしも望ましくない売り場を結果として生み出してしまっている可能性がある。

消費者が買いやすい売り場を意識して取り入れる

ではこのような課題に対してどのようなアプローチがありうるだろうか。ひとつは、他業態での売り場づくりの方法論を直売所にも応用することが考えられる。例えば同じ品目ないし似たような品目を近くに集めて配置する手法は、食品スーパーなどでは売り場づくりのセオリーとして一般化している。何がどこにあるか分かりやすく、商品の比較がしやすく、また商品間の関連性が理解しやすいために、来店客が欲しい商品を欲しい組み合わせで買いやすい売り場になるからである。またこれを前提に、計画的に露出の高い優位置に売れ筋商品を置いたり、来店目的となるような品目は店内奥に配置したりといった、導線誘導の工夫も可能になる。いわゆるインストア・マーチャンダイジングの理論である。実際、JAなどのノウハウある主体が運営するような直売所ではこういった売り場づくりを実践しているところも少なくない。

もちろん、こういった手法は、陳列計画の策定や実施といった業務が伴い、徹底すればするほど運営主体の管理コストが増加する。コンテナ割当を例に取れば、前述の通り低コストや形式的な公平性確保といった利点があり、これらを失ってしまっては特に中小店舗では継続的な運営に支障が生じてしまう。そこで提案したいのは、コンテナ割当の基本的な枠組みを維持しながら、その時期の特に売れ筋の商品に関しては特設の共有コーナーを別に設け、生産者の区別なく利用できるようにするといった施策である。大多数の消費者が求める商品の売り場が明確になり、棚の中での商品比較もしやすくなり、これを店内奥に配置すれば動線誘導も可能になる。店舗管理のしやすさと買い物のしやすさがある程度両立され、より効率的なスペース利用ができるのではないだろうか。

ただし、一口に直売所といっても、店舗によって規模や客層が異なり、他業態と比べても多様性がある。スーパーと同様に生鮮品が揃い日々の食材をまとめて買いに来る主婦層が多い店舗では先述の折衷的な売り場が効果的かもしれないが、地元のリピーターより一見の観光客が多く土産物の品揃えが多い店舗であれば、適切な売り場はまた少し違ったものとなるだろう。必要なのは、自店の顧客の購買行動がどういったものかを把握して、それに合わせた店頭を作ることである。すでに確立されたスーパーの売り場づくりを一つの参考としつつ、消費者調査や会員購買データの分析を通して店舗の特徴を把握し、それに基づいて独自のインストア・マーチャンダイジングの指針をつくって実践していくことが直売所においても重要である。

<注>
1農林水産省「平成21年度農産物地産地消等実態調査」
2香月敏孝・小林茂典・佐藤孝一・大橋めぐみ「農産物直売所の経済分析」『農林生産政策研究』第16 号(2009)、pp.40-41.